医療・介護施設では、認知症ケアのためにさまざまなリハビリテーションやトレーニングが取り入れられています。芸術活動を通して脳の活性化を図る非薬物療法の一つに“アートセラピー”があります。
医療・介護施設の担当者のなかには「アートセラピーにはどのような効果があるのか」「意欲的に参加してもらうにはどうすればよいのか」などと気になる方もいるのではないでしょうか。
この記事では、アートセラピーによる認知症予防のアプローチ方法や期待できる効果、取り組みのポイントについて解説します。
脳と心に働きかけるアートセラピー
アートセラピーとは、絵や造形、刺繍などの芸術活動を通して脳の活性化と心の安定を促す非薬物療法のことです。
芸術活動によって作品を創造したり、出来事や心理状態を自由に表現したりすることで、脳と心によい影響をもたらすと考えられています。
医療・介護現場における認知症予防のレクリエーションのほか、子どもの教育やメンタルヘルスケアの一環としても取り入れられています。
▼アートセラピーによる芸術活動の例
種類 | 活動例 |
絵画療法 | テーマを決めて絵具やクレヨンなどで絵を描いてもらう |
園芸療法 | フラワーアレンジメントやガーデニングなどの自然に触れる活動を行う |
箱庭療法 | 砂の入った小さな箱にミニチュアの人形や動物、植物の玩具を置いて自由な世界観を表現する |
コラージュ療法 | 雑誌やチラシから切り抜いた写真・絵・イラストなどを自由な感性で紙に貼りつける |
音楽療法 | 音楽鑑賞したり、音に合わせてグループで歌を唄ったり、楽器を演奏したりする |
詩歌療法 | 特定のテーマや心理状態に合わせて俳句・短歌を読み書きして自己表現をする |
作品の創作だけでなく、歌を唄う、楽器を演奏する、俳句を詠むなどの能動的な音楽活動もアートセラピーにおける療法の一種に含まれます。
アートセラピーによって期待できる効果
アートセラピーは、認知症の予防とケアを行うことに加えて、自分らしく生き生きとした生活を送るためにも有効な取り組みといえます。
認知機能の向上
アートセラピーを通して脳と身体を動かすことで、脳が活性化されて認知機能の維持・向上につながる可能性が期待できます。
厚生労働省の『あたまとからだを元気にするMCIハンドブック』によると、絵を描いたり、物を創ったりする活動によって言語記憶の機能が改善した効果が示されています。
▼芸術活動による言語記憶機能向上の効果
画像引用元:厚生労働省『あたまとからだを元気にするMCIハンドブック』
また、数人のグループで歌を唄う、楽器を演奏する、ダンスをするといった音楽活動を行うことで認知機能が改善する効果が見られています。
▼音楽活動による認知機能向上の効果
画像引用元:厚生労働省『あたまとからだを元気にするMCIハンドブック』
創作活動と音楽活動を通して手指を動かしたり、出来事や風景を思い出したりすることは、脳の実行機能や注意機能の活性化にもよい効果をもたらすと考えられています。
出典:厚生労働省『あたまとからだを元気にするMCIハンドブック』
活力の醸成
アートセラピーによって芸術活動に取り組むと、精神的にもよい影響がもたらされるため、生き生きとした毎日を送ることにつながります。
認知症になる前段階における軽度の認知障がいとして表れやすい症状に、気分の落ち込みや不安、イライラなどの心の変化が挙げられます。利用者が心穏やかに安心した生活を送るためにも、認知症ケアの一環として芸術活動を取り入れることが有効です。
創作を通して自己表現をしたり、本人の潜在的な能力を引き出したりすることで、楽しみや自信が生まれて生活の質向上につながると期待できます。
出典:厚生労働省『あたまとからだを元気にするMCIハンドブック』
コミュニケーションの活性化
医療・介護施設の職員や利用者同士でコミュニケーションをとる機会が増えることもアートセラピーによる効果の一つです。
認知症を患った方のなかには、心を閉ざして人との会話を避けるようになる人もいます。一方で、人との会話・交流は、相手の感情や言葉の意図を汲み取ったり、状況・文脈を理解したりする“社会的認知”の機能を活性化する役割があり、認知症の進行予防にも重要とされています。
アートセラピーによる創作活動・音楽活動をグループで実施することで、自然なコミュニケーションが増えて対人交流が盛んになります。その結果、会話の数が増えたり、感情表現が豊かになったりすることが期待できます。
出典:厚生労働省『あたまとからだを元気にするMCIハンドブック』
アートセラピーによる認知症ケアに取り組むポイント
認知症ケアの一環としてアートセラピーを取り入れる際は、周囲とのかかわりや活動中の接し方を意識することがポイントです。
01 発表や意見交換を行う場を設ける
アートセラピーによる芸術活動は、利用者一人で完結するのではなく、ほかの人への発表や意見交換を行う場を設けることがポイントです。
▼発表や意見交換を行う方法
- 作品を見た感想を利用者同士や職員、家族と話し合う
- 作品や演奏の鑑賞会を実施して、意見交換を行う
- 作品の内容や意図などを本人が発表・説明する など
作品や演奏などを発表する場を設けることで、目標をもって活動に取り組めるようになるほか、利用者同士・職員との積極的な交流を促せます。
02 ポジティブな声かけを行う
アートセラピーの芸術活動に取り組む際は、職員が利用者に対してポジティブな声かけを行うことが重要です。
利用者のなかには、思うように作業ができなかったり、作品に対して自信が持てなかったりする人もいると考えられます。安心した環境で落ち着いて作業ができるようにフォローを行ったり、前向きな言葉をかけたりすることがポイントです。
▼声かけのポイント
- 作業がうまくいかない場合には、困りごとを聞いて手順やアドバイスを丁寧に伝える
- 制作中の様子に目を向けて「とても熱心ですね」「完成が楽しみです」などの言葉をかける
- 完成した作品の良し悪しではなく、色合いや形、よいと思った感情などを伝える など
声かけを行う際は、ユマニチュードを取り入れる方法があります。ユマニチュードは、介護を受ける人の人間らしさを大切にして、ケアを通して優しさを伝えることで深い信頼関係を築く技法です。
アートセラピーの活動に対してポジティブな感情記憶を残すために、活動中に会話をしたり、次回を約束する言葉をかけたりすることで、楽しみや喜びにつながると期待できます。
なお、ユマニチュードの取り組み方についてはこちらの記事で解説しています。併せてご確認ください。
まとめ
この記事では、アートセラピーについて以下の内容を解説しました。
- アートセラピーの活動内容
- アートセラピーによって期待できる効果
- アートセラピーによる認知症ケアに取り組むポイント
アートセラピーによって芸術活動に取り組むことは、脳の活性化や心の安定につながります。医療・介護施設で取り入れることで、認知機能の向上を図れるほか、活力の醸成やコミュニケーションの活性化などの効果が期待できます。
利用者が楽しく意欲的に取り組めるように、作品の発表や意見交換ができる場を設けたり、活動中にポジティブな声かけをしたりすることがポイントです。
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