近年、国内における要介護(要支援)認定者は増加傾向にあり、高齢者のうちの約7人に1人が認知症になる社会が到来しています。

きたるべき未来に備えて、認知症の方が過ごしやすく、自分らしい生活を送れる環境を整える必要があります。そのためには、認知症に対する正しい知識のもと、地域・医療・介護などの社会全体で認知症の方に優しい住環境づくりを取り入れていくことが大切です。

なかでも日常生活のケア・サポートを行う介護施設においては、自立した行動がしやすいように、内装や家具などの物理的な環境から認知症の方に優しいデザインを工夫していくことが求められます。

介護施設の担当者のなかには、認知症の方に優しいデザインの実現に向けて、施設の内装リニューアルを検討されている方もいるのではないでしょうか。

この記事では、認知症の方が施設生活を送るうえでの悩みを踏まえつつ、内装リニューアルのメリットや認知症の方に優しいデザイン例について解説する。

出典:厚生労働省『介護分野をめぐる状況について』『認知症施策の総合的な推進について(参考資料)』/福岡市『認知症の人にもやさしいデザインの手引き

認知症の方が介護施設で生活するうえでの悩み

認知症とは、脳の認知機能(記憶や判断力)が低下して、社会生活や仕事などに支障をきたしている状態を指します。症状はさまざまですが、精神活動・身体活動がスムーズに運ばなくなることから、介護施設での生活においても以下のような悩みが生じやすいと考えられます。

▼認知症の方が介護施設で生活するうえでの課題

  • 物事を覚えられない(思い出せなくなる)
  • 時間や場所が分からなくなり、自立した行動が難しくなる
  • つまずきや転倒のリスクがある
  • 不安や孤独感、興奮などによる問題行動が起こる

このような悩みに寄り添うには、認知症の方の目線を理解したうえで、安心かつ生活しやすい施設機能を整えていくことが重要です。

出典:厚生労働省『認知症施策の総合的な推進について(参考資料)』/福岡市『認知症の人にもやさしいデザインの手引き』/政府広報オンライン『知っておきたい認知症の基本

悩みに寄り添った内装リニューアルのメリット

認知症の方の悩みに寄り添った内装リニューアルは、認知症の方にとって生活がしやすいように、物理的な環境を整える目的があります。

認知症の方が置かれている状況を理解して、必要な機能を果たせるようなデザインに設計することで、以下のメリットにつながります。

▼内装リニューアルのメリット

  • 居心地がよく安心感のある空間をつくれる
  • 主体的・自立した生活によって、その人らしさを生み出せる
  • 転倒リスクを低減できる

認知症の方が生活しやすい施設環境に改善することで、生活の質の向上や安全性の向上を図れるほか、家族と介護スタッフのサポートにもつながると考えられます。

認知症の方に優しい介護施設のデザイン例

認知症の方に優しいデザインを考える際は、記憶に頼らずに行動できる空間づくりと、安心して自分らしく過ごせる居場所づくりがポイントです。

①色のコントラストをつける

認知症の方は、記憶に頼って周囲の状況を把握することが難しくなります。また、空間認識の機能が低下して、物にぶつかりやすくなったり、段差につまずきやすくなったり、目的の場所が分からなくなったりすることがあります。

記憶に頼らずに、その場にある情報で今いる場所・目的地を理解できるような空間に改善することで、自立したスムーズな移動をサポートできます。

色によるコントラストで認識してほしい場所を目立たせたり、不要なものや混乱を招きやすいものを目立たなくしたりして、空間認識を助けるデザインにすることがポイントです。

▼色のコントラストを取り入れた例

  • 各階で色のイメージを変えて、今何階にいるか分かるようにする
  • 手すりや扉の取っ手部分の色を強調して手に取りやすくする
  • 壁と床、扉と壁の色調にコントラストをつけて目立たせる
  • 行く必要のない場所(スタッフ用設備など)はコントラストを弱くして目立たなくする
  • 段差のない床は、コントラストをつけずにつまずきを防ぐ

出典:福岡市『認知症の人にもやさしいデザインの手引き

②一目で情報を認識しやすいサインをつける

認知症の方が目的の場所を見つけやすいようにするために、一目で情報を認識できるサインを設けることがポイントです。

トイレや自室など、施設内の行動で迷いやすい場所の扉・廊下などに自然と目に入りやすいサインを設けることで、視覚情報を手掛かりに行動しやすくなります。

▼サインの設置例

  • 文字だけでなく、簡潔で分かりやすいピクトグラムを記載する
  • 視認する距離を想定して、見やすい大きさ・高さにサインを設置する
  • 英語や専門用語を使わず、使い慣れた言葉で表記する
  • サインの背景と図の色にコントラストをつけて目立たせる
  • 廊下の分岐点で矢印を記載した誘導サインを設置する

出典:福岡市『認知症の人にもやさしいデザインの手引き

③記憶を想起させるもの取り入れる

認知症になったとしても、若いころの記憶は比較的長い間保たれるといわれています。過去の記憶を想起させるようなものをデザインに取り入れることで、施設内の場所や部屋の用途などを直感的に理解しやすくなります。

また、その人が慣れ親しんだものは、親しみや喜びを感じやすく、落ち着いて過ごせる環境づくりにもつながります。

▼記憶を想起させるものを取り入れた例

  • 居室のドアを自宅のドアと同じ模様にする
  • 昔の思い出を想起させる絵や写真を部屋に装飾する
  • 家庭的なインテリアや照明器具を用いて自宅のような雰囲気をつくる

出典:福岡市『認知症の人にもやさしいデザインの手引き

認知症の方が過ごしやすく、自分らしい生活を送れる環境を内装デザインで

この記事では、認知症の方に優しい介護施設のデザインについて、以下の内容を解説しました。

  • 認知症の方が介護施設で生活するうえでの悩み
  • 認知症の方に寄り添った内装リニューアルのメリット
  • 認知症の方に優しい介護施設のデザイン例

認知症の方は、介護施設で過ごすなかで場所が分からなくなったり、つまずきや転倒のリスクがあったり、不安になったりとさまざまな悩みを抱えやすくなります。

安心して快適に生活できる施設環境を整えるには、色のコントラストやサインを活用して、記憶に頼らずに行動しやすい空間をつくったり、記憶を想起させるものを取り入れたりすることがポイントです。

内装リニューアルを実施して、認知症の方に寄り添った環境を整えることで、生活の質の向上や安全性の向上、ひいては家族と介護スタッフのサポートにもつながります。

ワークプレイスIggy』では、認知症の方が持っている能力を引き出すデザインによって、自立した生活や安心できる居場所づくりをサポートしています。認知症の方に優しい内装へリニューアルをお考えの方は、ぜひお問い合わせください。

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