ユマニチュードは、フランスで開発された認知症ケアの技法です。

介護を受ける人に寄り添い、“見る・話す・触れる・立つ”という人間らしさを大切にしたコミュニケーションを通して、介護する人とのより深い信頼関係を築くことを目的としています。

「認知症の方とのコミュニケーションがうまくいかない」という悩みを抱えている医療・介護施設では、ユマニチュードによる認知症ケアでどのような効果が得られるのか、具体的な方法や注意点を学びたいとお考えの方もいるのではないでしょうか。

この記事では、ユマニチュードによる認知症ケアの効果と実施例、ケアを行うときの注意点について解説します。

ユマニチュードによる認知症ケアの効果

ユマニチュードは、介護をする人と受ける人が対等な目線で向き合い、人間らしさを尊重したケアで尊厳を守ることが基本姿勢とされています。ユマニチュードによる認知症ケアを取り入れると、以下の効果がもたらされることが期待できます。

穏やかな気持ちになる

ユマニチュードを用いた認知症ケアでは、患者に寄り添ったコミュニケーションを通して信頼関係を築いていきます。

「あなたのことを大切にしている」という気持ちを言葉や触れ合いによって伝えることによって、ケアを受ける人の安心感が醸成されて心が穏やかになると期待できます。

また、介護者に対して心を開いてもらい介護に対する不安や恐怖心が和らぐと、ケアを拒否したり、攻撃的な言動を発したりすることが軽減されることもあります。

身体・認知機能の維持・回復を助ける

ユマニチュードによる認知症ケアでは、身体・認知機能の維持・回復を助ける効果も期待されています。

強制的な介護や過度な身体の抑制は、身体機能の回復を阻害してしまったり、できる機能まで維持できなくなったりする可能性があります。

ユマニチュードでは、ケアのレベルに応じて3つの目標が掲げられています。

▼ユマニチュードによるケアの目標

  • 機能の回復
  • 機能の維持
  • 最期まで寄り添う

「今できること」を大切にして自立した生活を支援したり、患者自身の生きる力を奪わないケアを心がけたりして、患者一人ひとりの症状・性格に応じたケアを行うことで、身体・認知機能の回復・維持を助けられると考えられます。

介護者への負担が軽減される

ユマニチュードは、介護者に対してもよい効果がもたらされるといわれています。

ユマニチュードによる認知症ケアを通して患者との信頼関係を築くことで、スムーズにケアを受け入れてもらえるようになると期待できます。

ケアの拒否や攻撃的な言動などが減少すれば、お互いに気持ちよくケアの時間を過ごせるようになり、介護者への心理的な負担も軽減されると考えられます。

ユマニチュードを取り入れたオムツ交換の実施例

ユマニチュードは、介護者が患者に対して「あなたを大切にしている」ことを伝えるための基本行動となる“4つの柱”を取り入れながら、5つのステップで取り組む必要があります。

▼4つの柱

基本行動内容
見る愛情や優しさなどの肯定的な感情を伝える
話す認知機能の低下を防ぐ、コミュニケーション円滑にする
触れる安心感を与える
立つ筋力アップ、身体機能の維持・向上につながる

▼基本の5ステップ

ステップ内容
1.出会いの準備介護者の来訪を伝える
2.ケアの準備挨拶と声かけを行う
3.知覚の連結愛情や優しさを知覚を通して伝える
4.感情の固定ポジティブな体験を記憶に残す
5.再開の約束別れの挨拶をする

今回は、認知症患者の方へのオムツ交換を行うときのユマニチュードによるケアの実施例を紹介します。

なお、4つの柱と基本の5ステップについては、こちらの記事で詳しく解説しています。併せてご確認ください。

“ユマニチュード”の5つのステップ。4つの柱を取り入れた優しい認知症ケアとは

01 出会いの準備|介護者の来訪を伝える

ステップ1では、介護者の来訪を伝えます。

心の準備を整えて安心してケアを受けてもらえるように、部屋に入る前にドアをノックして、介護者の名前や来訪を伝えます。

▼来訪を伝える声かけの例

「〇〇さん(患者の名前)、〇〇(介護者の名前)です。オムツを交換しに来ましたよ。」

02 ケアの準備|挨拶と声かけを行う

ステップ2では、挨拶と声かけを行います。

いきなりオムツ交換を行うのではなく、挨拶と声かけを行い、ポジティブな言葉を投げかけてケアを提案します。ケアを拒否されてしまう場合には、無理やり行わずに一旦ストップして時間を置いてから再度試みます。

▼挨拶と声かけを行う例

「〇〇さん(患者の名前)、おはようございます。今日は天気がよくて気持ちのよい朝ですね。〇〇さんのお顔を見られて嬉しいです。これからオムツを変えていきましょうか。」

挨拶をする際は、患者と目線の高さを合わせて、目を見ながらゆっくりと穏やかな表情で声をかけることがポイントです。その際は、ケアをする内容だけでなく「会えて嬉しい」という気持ちを伝えるようにします。

03 知覚の連結|愛情や優しさを知覚を通して伝える

ステップ3では、視覚・聴覚・触覚の知覚を刺激しながら、愛情や優しさが患者へと伝わるケアを行います。

見る・話す・触れるという動作を2つ以上組み合わせて、ケアの行動と言動を一致させるようにすることがポイントです。

▼ケアを行うときの声かけの例

  • 「これからオムツを変えていきます。横向きになりましょう(身体機能に応じて変える)」
  • 「今から体を拭いていきます。すぐに終わりますよ」
  • 「新しいおむつに交換しますね」

患者の衣服を脱がしたり、体勢を変えたりする際は、目を見ながら肩や手に優しく触れて作業手順を説明していくと、ケアの不安・恐怖を和らげられます。

04 感情の固定|ポジティブな体験を記憶に残す

ステップ4では、ケアに対するポジティブな体験を記憶に残します。

オムツ交換が終わったあとに肯定的な言葉をかけると、ケアが患者にとって“喜び”や“心地よさ”といった前向きな感情に結びつくことが期待できます。

▼肯定的な言葉をかける例

  • 「綺麗になってすっきりしましたね」
  • 「たくさん協力してくださってありがとうございます」

05 再開の約束|別れの挨拶をする

ステップ5では、患者に対して別れの挨拶をします。

ケアが終わったあとにまた来ることを伝えて、ケアに対する喜びや介護者に会える期待を持ってもらえるようにします。

▼別れの挨拶をする例

  • 「次のオムツ交換は夕方ですよ、またすぐに会いに来ますね」
  • 「また明日お会いできるのを楽しみにしていますね」

別れの挨拶を通して介護者に対してポジティブな印象を残すことで、次回のケアをスムーズに受け入れてもらえると期待できます。

ユマニチュードを実践する際の注意点

ユマニチュードには、声かけやスキンシップを通して患者との信頼関係を構築して、お互いにとってよりよいケアにつなげる効果が期待されています。

ただし、実践にあたってはいくつか注意点もあります。

▼ユマニチュードを実践する際の注意点

  • 体に触れるときはゆっくりと優しくする
  • 時間的な余裕を持って実施する
  • 声かけや目線を送ることを絶やさない

ユマニチュードによるケアを行う際は、急に体を触ったり、腕をつかんだりせずに、ゆっくりと優しく包み込むように触れることが大切です。肩や背中などの広い面積から優しく体に触れることで、患者に安心感を与えて「大切にされている」と感じてもらいやすくなります。

また、ユマニチュードの実践には、一つひとつの動作について患者の意思を確認したり、声かけをしたりしながら進める必要があるため、時間に余裕を持つことが重要です。時間的な余裕を持つことで、介護者の心にも余裕が生まれてお互いに気持ちよくケアを進められます。

さらに、ケアを行うときは常に声をかけたり、目線を送ったりして、介護者の存在を認識してもらいながら患者が安心できる環境をつくることも欠かせません。

互いに安心できる環境から生まれる信頼関係の構築

この記事では、ユマニチュードによる認知症ケアについて以下の内容を解説しました。

  • ユマニチュードによる認知症ケアの効果
  • ユマニチュードを取り入れたオムツ交換の実施例
  • ユマニチュードを実践する際の注意点

ユマニチュードによる認知症ケアを実践すると、攻撃性や不安が和らいで患者の気持ちが穏やかになるほか、身体・認知機能の維持・回復を助けたり、介護者の心理的な負担を軽減したりする効果が期待されます。

愛情や優しさをもって患者と接することは、介護者との信頼関係に結びつき、スムーズかつ心地のよいケアへとつながります。認知症患者の方へのケアやコミュニケーションにお悩みの方は、ユマニチュードに基づいたケアを実践されてはいかがでしょうか。

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