ユマニチュードとは、フランス語で“人間らしさ”を意味します。1979年にフランスの体育学の専門家であるイヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティによって開発された認知症ケアの技法です。

人間らしさを尊重したケアを通して、介護をする人と受ける人との間でよりよい関係性を構築するという考え方に基づいています。

医療・介護施設では、認知症の方とのコミュニケーションが思うようにいかず、日々のケアに悩まれる方も少なくありません。ユマニチュードによる認知症ケアの考え方を取り入れることで、人間の尊厳や優しさを大切にした一人ひとりに寄り添ったケアにつながると考えられます。

この記事では、医療・介護施設における認知症ケアに取り入れられるユマニチュードの基本姿勢と4つの柱、5つのステップについて解説します。

なお、認知症の方に優しい介護施設のデザインについてはこちらの記事で解説しています。併せてご確認ください。

認知症の方に優しいデザインとは? 介護施設の内装から生活をサポート

ユマニチュードの基本姿勢と3つの目標

ユマニチュードは、「人とは何か」「ケアをする人とは何か」を問い、認知症ケアを通して「自分は人間である」という尊厳を思い起こすことを重視しているのが特徴です。認知症の方の人間らしさを大切にして、「その人の持つ能力を奪わない」ことを基本姿勢としています。

介護をする人と受ける人が互いに平等であることを踏まえて、ケアを通して優しさを伝えていくことで、絆が生まれてよりよいケアの実現につながると考えられます。ユマニチュードには、認知症の方に必要なケアのレベルに合わせて3つの目標が設定されています。

▼ユマニチュードにおける3つの目標

目標内容
1.心身の回復を目指す立位保持ができる方に対して、日常生活の動作を少しでも自力で行えるように支援する
2.身体機能・能力を維持する介護をする方の歩く・食べるなどの今ある身体機能を維持できるようにする
3.最期まで寄り添う身体機能の回復・維持が難しい状態であっても、最期まで尊厳を大切にしたケアを行う

ユマニチュード4つの柱

ユマニチュードでは、ケアを行う側が認知症の方に対して「あなたは大切な存在である」ことを伝える技術を4つの柱で示しています。

01 見る

相手の目を見ることは、平等・信頼・正直・優しさ・愛情などの想いを言葉でなく伝えるための行為となります。ケアを行うときには、以下のように相手の目を見ることが大切です。

▼目を見てケアを行う例

  • 同じ目線になって話す
  • 近くに寄り添いながら見つめる
  • 正面から近づいて相手を見る など

02 話す

ケアをする相手と話すことは、介護をする際に安心感を持ってもらい、信頼関係を築くための行為といえます。

話す際は、穏やかな口調と優しいトーンで歌うように語りかけるようにします。また、話せない方に対しては、ケアの内容を実況するように言葉をかける“オートフィードバック法”を取り入れることも有効です。

▼話ながらケアを行う例

  • 「今から腕を拭いていきますよ」
  • 「入浴するとさっぱりとして気持ちがいいですね」
  • 「美味しいごはんを食べましょう」

 

03 触れる

相手の体に触れる行為は、優しさや安心感を伝える技法の一つとされています。ケアを行う際は、コミュニケーションを取りながら優しく肩や背中などに触れるようにします。

▼ケアの際に体に触れるときのポイント

  • 指でつかもうとせずに、手のひら全体で触れるように意識する
  • 顔や手にはいきなり触れずに、腕・背中などから触れるようにする

04 立つ

ケアを行う際には、立つ時間や機会をつくるようにすることも大切です。立つことは、筋肉や関節を動かしたり、めぐりをよくしたりして心身ともによい影響をもたらすといわれています。

▼立つ動作の取り入れ方

  • 歩く機会を1日20分程度つくる
  • 立位保持ができる方の場合、立位で洗面や清拭などのケアを取り入れる

ユマニチュードを実践する5つのステップ

認知症のケアにユマニチュードを取り入れる際は、見る・話す・触れる・立つといった4つの柱を実践するための5つのステップで取り組むことがポイントです。

ステップ1|出会いの準備

出会いの準備は、認知症のケアを始める際に相手に来訪について伝えるためのステップです。介護職員の来訪を伝えることで、心の準備を整えてもらい安心しながらケアを受けてもらえるようになります。また、ケアを受け入れるかどうかを相手に選択してもらう目的もあります。

▼介護職員の来訪を伝える流れ

  1. ドアをノックして反応を待つ
  2. 反応がない場合、再度ドアをノックする
  3. 「入りますよ」と声をかけて入室する

ステップ2|ケアの準備

ケアの準備では、認知症の方へのケアを行う前に挨拶や声かけを行います。

介護職員を認識してもらい、相手の同意を得てからケアに移ることがポイントです。声かけを行う際にポジティブな言葉をかけることで、良好な関係を築けるようになります。

▼ケアの準備を行う流れ

  1. 相手の正面から視界に入り、挨拶をする
  2. 目を見ながら会えてうれしい気持ちを伝える
  3. 日常会話をしてから、これから行うケアの内容について説明する

ステップ3|知覚の連結

知覚の連結では、ユマニチュードの“4つの柱”に含まれる見る・話す・触れるの要素を取り入れて、相手を大切にしている気持ちが伝わるようなケアを行います。

介護をしながら見る・話す・触れるといった要素の2つ以上の行為を同時に行うことによって、心地のよいケアの実現につながります。

▼知覚の連結を行う例

  • 体を拭きながら、「すっきりしますね」と声をかける
  • 相手の目を見ながら、食事の説明をする

ステップ4|感情の固定

感情の固定は、ケアを行ったあとによい感情と記憶を残してもらうために、振り返りや会話を行うステップです。

会話を通してポジティブな言葉を投げかけたり、介護職員の気持ちを伝えたりすると、よい印象が残り次回のケアをスムーズに受け入れてもらいやすくなることが期待できます。

▼感情を固定させるための声かけの例

  • 「お話できて楽しかったです」
  • 「とても美味しかったですね」

ステップ5|再会の約束

再会の約束では、ケアを終えたあとにまた会うことを約束する言葉をかけます。

介護職員やケアの時間に対してポジティブな感情記憶を残すことで、次回の来訪が楽しみ・歓びに変わり、穏やかな状態でケアを受け入れてもらいやすくなると考えられます。

▼再会を約束する声かけの例

  • 「また来ますね」
  • 「次に会えるのを楽しみにしていますね」

ユマニチュードを取り入れることで優しさや安心感を伝えられる

この記事では、ユマニチュードによる認知症ケアについて以下の内容を解説しました。

  • ユマニチュードの基本姿勢
  • ユマニチュード4つの柱
  • ユマニチュードを実践する5つのステップ

認知症ケアの技法となるユマニチュードには、人間らしさや尊厳を大切にしながら、その人が持つ能力を奪わないという基本姿勢があります。見る・話す・触れる・立つといった4つの柱をケアに取り入れることで、優しさや安心感を伝えられるようになり、よりよいケアにつながります。

また、認知症の方との絆を深めて、穏やかかつスムーズにケアを受け入れてもらえるようにすることは、介護職員における心身の負担軽減にも結びつくと考えられます。

医療・介護施設では、ユマニチュードを実践する5つのステップを踏みながら、介護職員とケアを受ける人との良好な関係性を築けるように取り組むことが大切です。

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