私たちの身の回りは、さまざまな色に囲まれています。色には情報をキャッチして識別する機能的な役割のほかに、人の感情や情緒などの心理に働きかける効果もあるといわれています。

認知症の方が過ごす医療・介護施設においても、空間認知を助けたり、精神を安定させて穏やかに過ごしたりできる環境をつくるために、色彩の効果を活用することが重要です。

医療・介護施設の管理者のなかには「色が認知症の方の行動や感情にどのような影響を与えるのか知りたい」「色の効果を活用して安心して過ごせる環境を整えたい」などとお考えの方もいるのではないでしょうか。

この記事では、認知症と色との関係性を踏まえつつ、安全で居心地のよい施設環境をつくるための色彩活用のポイントを解説します。

認知症と色の関係性

視覚から得られる情報は、人の五感による知覚の約8割を占めているといわれています。視覚情報の一種に含まれる“色”には、大きく2つの働きがあります。

▼色の働きと役割

働き役割
機能的効果文字や形を見やすくして視認性を高める文字や形を目立ちやすく強調して、注目・注意を引く文字や形の内容を理解しやすくする(明視性・可読性を高める)
心理的効果色が持つイメージ・雰囲気から感情を喚起させる色から連想させるイメージを活用して情報を伝える

認知症になると、加齢による色覚の変化のほか、視力・周辺視野・視覚情報の処理能力などが低下している場合があり、モノや空間を認識するのが難しくなることがあります。

認知症の方の自立した行動を支援しつつ、過ごしやすい施設環境をつくるには、機能的効果と心理的効果の2つの要素を考慮して、壁や設備などの配色を工夫することが重要です。

安全で居心地のよい施設環境をつくる色彩活用のポイント

色の機能的効果は、認知症の方の空間認識を助けるために活用できます。記憶に頼らずに環境のなかで状況を理解しやすくすることで、自立した行動を促せるようになります。

また、色の心理的効果については、不安や混乱、孤独感などを和らげて、居心地よく安心感のある空間をつくるために活用することが可能です。

ここからは色が持つ機能的効果・心理的効果を取り入れた、施設環境づくりにおける色彩活用のポイントを解説します。

01 サインの地色と図色にコントラストをつける

施設内に設置するサインには、認知症の方が記憶に頼らずにその場にある情報で行動しやすいように誘導する役割があります。

扉や通路に文字またはピクトグラムを用いたサインを設置する際は、背景となる地色と図色にコントラストをつけることによって視認性を高められます。色の明るさ・暗さを示す明度に対比をつけることがポイントです。

また、サインの地色と図色は、識別しやすい色の組み合わせを選ぶことが重要です。以下のような色の組み合わせは、識別しにくい可能性があるため避けるほうがよいといえます。

▼識別しにくいサインの地色・図色の組み合わせ例

画像引用元:国土交通省『4.色覚障害者に配慮した設備整備のあり方の提案

02 扉や手すり、家具の色が同化しないようにする

医療・介護施設において、認識してほしい場所の注意を引くために、色をつけて同化しないようにすることもポイントの一つです。

扉や手すり、家具などが周辺の壁・床と同化しないように色をつけることで、境目を判別しやすくなります。これにより、目的の場所を認識して行動しやすくなるほか、色の区別がつきにくいことによる転倒やつまずきなどの事故を防げます。

▼色の区別をつける例

  • 自室やトイレの扉と壁の色にコントラストをつける
  • 壁と手すり・扉と取っ手の色にコントラストをつける
  • 床の色と同化しにくい椅子・テーブルの色を選ぶ

03 段差の有無に合わせて床の色を工夫する

施設内の廊下や部屋との境目などの段差のない床部分については、色を統一することが重要です。床の色にコントラストがある場合、段差があるように見えてしまい、立ち止まったり、バランスを崩して転倒したりする可能性があります。

トイレと廊下、部屋と廊下などのつながりを認識しやすいように、コントラストをなくして明度を統一することがポイントです。

反対に、階段の踏み板や浴室の浴槽・洗い場などの段差のある場所については、色のコントラストをつけて高低差を認識しやすくすることも重要です。

なお、認知症の人は、大きな模様や強い色に対して不安を覚える人もいるため、床の模様は落ち着いたものを選ぶ必要があります。

04 用途に合わせた色を取り入れる

医療・介護施設の内装には、用途に合わせた色を取り入れることがポイントです。

色によって人に与える印象が変わり、そこから生まれる感情にも影響します。色が持つイメージと心理的効果を知り、医療・介護施設の各スペースの用途に合った配色を取り入れることが有効です。

▼医療・介護施設で取り入れるとよい色と心理効果

色が持つ印象心理効果
元気・希望・愉快・活発明るく活発な気持ちにさせる胃腸の働きを活発にさせる
陽気・暖かい・楽しい安心感や暖かさを思わせる楽しく朗らかな気持ちにさせる
安らぎ・若々しい・癒し・優しい・調和穏やかでリラックスした気持ちにさせる身体の疲労を癒す
信頼・爽やか・誠実・知的・落ち着き緊張や不安を和らげる爽やかな気持ちにさせる集中力を促進させる
ぬくもり・落ち着き・信頼温かみやぬくもりを感じさせる気持ちを落ち着かせる
ベージュナチュラル・優しい・家庭的緊張を緩める安心や優しさを感じさせる

ただし、鮮やすぎる色は印象がきつくなり、見る人に圧迫感や疲労を感じさせる可能性があります。認識しやすい明度を確保しつつも、親しみやすく疲れにくい柔らかい色味を選ぶことがポイントです。

▼色の心理効果を利用した施設づくりの例

  • レクリエーション部屋には、活動的で陽気なイメージのある橙や黄の色を小物・絵などで取り入れる
  • 利用者の自室には、心を落ち着かせてリラックスできるようにベージュのカーテンや緑の観葉植物を取り入れる

安全で居心地のよい医療・介護施設をつくる色彩活用のポイントとは

この記事では、医療・介護施設における色の活用について以下の内容を解説しました。

  • 認知症と色の関係性
  • 安全で居心地のよい施設環境をつくる色彩活用のポイント

色には、空間認識を助けたり注意を引いたりする機能的な役割のほか、色が持つイメージから感情を喚起させる心理的効果があります。

医療・介護施設においては、環境に合わせた色選びが重要です。なかでも認知症の方には、周囲の状況を理解しやすくするサイン表示や床・壁・扉のコントラスト、色が与えるイメージを踏まえて内装の配色を考慮することがポイントといえます。

なお、認知症の人に優しい内装デザインについては、こちらの記事で解説しています。併せてご確認ください。

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